納棺の儀/おばあちゃんとナツ

知らない人みたい とナツは思う
白装束に着せかえられて
いま、薄化粧をほどこされている最中の
おばあちゃんは
どんどんナツの知らないおばあちゃんになっていく
そう、ナツは思う
鈴の音が鳴り響く

両手がしっかりと胸のうえに組み合わされて
ナツはもう
おばあちゃんの手を取ることはできない
家ではよく手を握っていたよ
目が開いているときも
目を開けなくなってからも
痩せた手 温い手 息をしなくなったあとも
冷たくなっていった手 ずっと握っていた手が
胸のうえに組まれて
いま、旅立ちの支度をする

知らない人みたい 
ナツの胸のなかで言葉が膨らんで
黒く硬いものにその姿を変えていく

むかし、お父さんに見せてもらった
黒曜石みたいなものかしら
欠けたところがとても鋭利だから
触るときは指を切らないように気をつけなくちゃ

ナツの顔がこわばる
ナイフの形になったものよ
おまえが切り裂きたいものはいったいなに
ナツが問いかけるそのあいだにも
鈴の音は鳴り続けている


2009.9.9

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